マンチェスター バイ ザ シー

兄の死をきっかけに捨てたはずの故郷に戻ることになった主人公リー。この映画はきっとリーの心が許し許されていく筋だろうと思い込んでいたが綺麗に裏切られた。おかげで大変充実した鑑賞となった。

自分の過失で3人の子供たちが焼け死に、生き残った妻とも別れてしまったリー。その消せない過去を背負って、住めなくなった故郷を捨てボストンで、アパートの住人に使われる便利屋として生きている。まるで自ら懲役を科しているかのように。

そこに突然の兄の死で彼の地下に潜るような生活は変わる。兄の遺書で残された子供の後見人として、故郷に戻れというものだ。兄の計らい。リーもそれを驚きながらも、子供のためを想い暮らし始める。

でも故郷には思い出が多すぎた。別れた妻との再会、兄の元妻との再会、生き残っていた噂。

バーで酔客に殴りかかるシーンは二度ある。最初はボストンで。二度目は故郷で。リーの心が変わっていないことを上手くあらわしている。画の取り方も緊張感、ハリがあってみていて心地よい。2時間見ていても飽きない。前触れ無く切り替わる回想シーンも自然で、リーが追憶の中に生きていることを感じさせた。

兄の埋葬の後、とぼとぼと歩くリーとパトリック。ボストンに戻ることを告げるリー。でも部屋はこれまでのワンルームと違ってパトリックが泊まりに来れる様もう一部屋ある物件を探すという。

故郷に戻って、元家族に再会し、彼ら彼女らが人生を再開させていることを知り、自分も変われるかも知れないと思い出したのかもしれない。

明確な希望は描かれていなかった。それが良い。時が解決するまで、その記憶が小さくなるまでリーは生きていくのだ。